親が認知症になる前に。家族信託という選択肢のリアル

「最近、親の物忘れが気になるようになってきた」
「もし認知症が進んだら、実家のことはどうなるんだろう」
「家族信託って聞くけど、自分の家にも必要なの?」

親が元気なうちは、深刻に考えなくても済むこと。
でも、認知症の症状が進んでから「あのとき動いておけばよかった」と後悔するご家族をたくさん見てきました。

この記事では、親が認知症になった場合に実家(不動産)で起きる困難と、それを回避するための「家族信託」という選択肢について、現実的な視点でお伝えします。

法律情報の前提: 本記事は2026年5月時点の情報です。家族信託の設計は個別性が高いため、必ず司法書士・弁護士など専門家にご相談ください。

目次

この記事でわかること

  • 親が認知症になったとき、実家がどうなるか
  • 「成年後見制度」では実家の売却が極めて難しい理由
  • 家族信託という選択肢の仕組みと費用感
  • 家族信託の設定タイミング(=認知症進行前)
  • 親に切り出すときの言い方

まず、不安を煽る記事ではないことだけ

家族信託について書かれた記事の多くは、「認知症になると家が売れなくなる」と不安を煽り、サービスへ誘導する流れが目立ちます。

この記事は、そうした方向ではありません。

家族信託は確かに有用な制度ですが、すべての家庭に必須というわけではありません。
ご自身の家族の状況に当てはめて、「うちにも必要かどうか」を冷静に判断するための情報をお伝えします。

親が認知症になると、実家で何が起きるか

まず、認知症が進行した場合、不動産まわりで具体的に何が起きるかを整理します。

起きること1: 不動産の売却・賃貸ができなくなる

不動産の売買契約や賃貸借契約は、本人の判断能力が前提です。
医師の診断で「意思能力なし」と判断された場合、契約自体が無効になります。

起きること2: 預金の引き出しが制限される

銀行は本人の認知症を把握すると、預金口座を「凍結」することがあります。
家族が代理で引き出すには、後述の成年後見制度等の手続きが必要になります。

起きること3: 大きな修繕・リフォームが滞る

「実家の屋根が壊れた、すぐ修繕したい」というケースで、契約者が認知症の親だと業者が契約に応じない場合があります。

起きること4: 施設入居費用の捻出が難しくなる

施設入居費を実家の売却で賄おうとしても、認知症が進んでいると売却そのものが不可能。
家族が立替払いを続けるしかない状況になります。

「成年後見制度」では実家の売却は極めて難しい

「認知症になったら、成年後見制度を使えばいい」と思われがちですが、実はこの制度には大きな制約があります。

成年後見制度の概要

  • 家庭裁判所に申立て、後見人を選任してもらう
  • 本人の財産管理・身上監護を後見人が代行
  • 後見人は弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職が選ばれることが多い(家族が選ばれるとは限らない)

成年後見制度のハードル

ハードル1: 居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要
本人が住んでいた家(=実家)を売却する場合、後見人が勝手に売ることはできません。
家庭裁判所への「居住用不動産処分許可」の申立てが必要で、許可が下りないケースも珍しくありません。

ハードル2: 専門職後見人への報酬が継続発生
家族が後見人になれなかった場合、専門職後見人への報酬(月2〜6万円程度)が、本人の財産から継続的に支払われます。
親の余命にもよりますが、10年で数百万円の負担になります。

ハードル3: 制度開始は親の死亡まで続く
成年後見は、一度開始すると親の死亡まで継続します。
「不動産を売るためだけに使う」ことはできません。

つまり、「認知症になってから成年後見で対処」は、想像以上に重い選択肢です。

家族信託という選択肢

そこで近年、注目されているのが家族信託です。

家族信託の仕組み

  • 親(委託者)が、信頼できる家族(受託者・通常は子)に財産の管理権限を委ねる契約
  • 契約後、不動産の名義は受託者に移るが、利益は引き続き親(受益者)に帰属
  • 契約内容は柔軟に設計できる(認知症発症時の対応・売却条件・相続後の承継先など)

家族信託のメリット

項目 家族信託 成年後見
設定時期 認知症発症前のみ 認知症発症後
不動産売却の柔軟性 高い(契約内容次第) 低い(裁判所許可必要)
継続的なコスト なし 専門職後見人報酬(月2〜6万円)
家族が管理者になれるか 自由 専門職が選ばれることが多い
制度終了 信託契約終了時 親の死亡時
相続対策との連動 可能 不可

家族信託の費用感(初期設定)

項目 費用目安
司法書士・弁護士への信託契約書作成費 20〜50万円
公正証書作成費(信託契約の公正証書化) 3〜7万円
不動産の信託登記の登録免許税 評価額の0.4%(土地は0.3%の特例あり)
司法書士の登記手続き代行 5〜10万円
総額目安 30〜80万円

不動産の評価額や家族構成によって変動しますが、30〜50万円が一つの相場です。

成年後見制度を10年使うコスト(月2〜6万円 × 12ヶ月 × 10年 = 240〜720万円)を考えると、家族信託の初期投資は決して高くありません。

家族信託が向く家庭・向かない家庭

家族信託はすべての家庭に必要なわけではありません。

家族信託が向く家庭

  • 実家が地方にあり、将来売却・賃貸を視野に入れている
  • 親が高齢で、認知症リスクが現実的に意識される(80歳以上等)
  • 信頼できる家族(子)がいて、財産管理を任せられる
  • 兄弟間で大きな対立がなく、合意形成できる
  • 親本人が制度に理解を示してくれそう

家族信託が向かない・必要性が低い家庭

  • 親がまだ60代で健康
  • 不動産の売却・賃貸の予定がない
  • 兄弟間で深刻な対立がある(信託受託者の選任で揉める)
  • 親本人が制度に強く反対している
  • 不動産以外の資産がほとんどない(預金は別の制度で対応可能)

親に家族信託を切り出すときの言い方

家族信託の必要性は分かったけれど、親にどう切り出せばいいか分からない。
これも大きなハードルです。

切り出すタイミング

  • 親の健康状態が比較的安定している時期
  • 家族で集まる機会(お盆・お正月・親の誕生日等)
  • 「親の最近の様子で気になる小さなこと」がきっかけになる時期

切り出し方の例

「最近、ニュースで認知症の話題を見ることが多くて。
もしお父さん(お母さん)に何かあったとき、家のこととか、できるだけ家族で対応できる準備をしておきたいなと思って。
司法書士の先生に一度相談だけでも行ってみない?」

ポイントは「親の心配」ではなく「家族としての準備」と位置付けること
「あなたが認知症になるかも」と言うと、親は当然不快に感じます。
「家族で備える」というスタンスで話せると、受け入れられやすいです。

司法書士の初回無料相談を活用

家族信託は専門性が高く、家族だけで判断するのは難しいです。
多くの司法書士事務所が初回無料相談を提供しているので、親も含めて一度話を聞いてみるのがおすすめです。

「無料相談だから、話を聞くだけで気が変わってもいい」と前置きすると、親も応じやすくなります。

家族信託の設定後に注意すること

家族信託は設定して終わりではありません。

受託者(管理を任された子)の責任

  • 信託財産の分別管理(信託専用の口座を作る)
  • 帳簿の管理
  • 受益者(親)への定期的な報告

兄弟への配慮

  • 受託者になった子だけが財産を管理する形になる
  • 他の兄弟が「自分は外された」と感じることがある
  • 信託契約に「他の兄弟への報告義務」を明記する設計が推奨

信託契約の見直し

  • 親の状況や家族構成が変わった場合、契約の見直しが必要
  • 受託者の死亡・転居等にも備える条項を入れておく

まとめ

親が認知症になる前にできる備えとして、家族信託は強力な選択肢です。

  • 認知症発症後は、実家の売却・賃貸が極めて難しくなる
  • 成年後見制度は継続的なコストと制約が大きい
  • 家族信託は認知症発症前にしか設定できない
  • 費用は30〜50万円程度が相場
  • すべての家庭に必須ではなく、家族の状況次第

判断に迷うなら、まず司法書士の初回無料相談から。
1時間話せば、ご自身の家庭に必要かどうかの感覚が掴めます。

「親に切り出す」のは確かに勇気が要りますが、後回しにすると選択肢そのものを失います。
焦らず、でも先送りはしすぎず、ご家族で話し合う機会を持ってみてください。


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